奥崎謙三が死んだ

id:vacant:20050626経由で知った。
あの奥崎謙三が死んだ。
馬鹿な男だった。俺とは思想的に正反対にいた男だった。
天皇ポルノビラばらまき事件、天皇陛下にパチンコ玉発射、元上官宅を訪問し長男を銃撃・・・。まさに極左行動派だった。彼の怒りは当初、左翼団体にいいように利用されていた。しかし狂気が進行するにつれ左翼から捨てられた。
最後には狂った妻と二人きりになった。「ゆきゆきて、神軍」のラストには一人きりで街宣車を走らせる妻の姿が映っている。妻は奥崎より先に逝った。奥崎は65歳にして最もよき理解者を失い、ついに一人きりになった。この事が奥崎の狂気を加速させたのだろうか?俺にはわからない。


ゆきゆきて、神軍」の彼は敵ながらあっぱれというか敵にして不足なしと言った迫力があった。「田中角栄を殺す」と書いた街宣車を乗り回し、行く手を阻む警官に「捕まえてみろ!犬どもが!おうコラッ!」と圧倒的な剣幕で怒鳴る彼には一種のカリスマがあった。元上官に会いに行き、「殴らなければいけません」と言って本当にカメラの前でボコボコにする様は野獣そのものだった。
彼が戦友の実家を訪ね、墓参りをするシーンがある。そして戦友の母に「彼は苦しまずに逝ったと思います」と必死に涙をこらえながら、声を詰まらせながら母を慰めるのである。怒りの裏に普通の人情も持っていた。それが「ゆきゆきて、神軍」に描かれた奥崎であった。


しかし「神様の愛い奴」を観て、あまりの哀れさにしみじみと泣けた。
獄中から出てきた奥崎は思想を失った、ただの純粋な狂人となっていた。手作りの真っ白い制服に身を包み「ゴッドワールドをつくる」と妄想を止まる事なく語った。
その新しい映画で、彼は完全におもちゃにされていた。AVを撮影され、精神薄弱の男を紹介され、SM嬢になじられ、小便をかけられ。
決定的なのは、かつて「ゆきゆきて、神軍」収録中に奥崎に仲人を務めてもらって結婚した左翼青年が再び登場するシーン。出所した奥崎は自宅ですき焼きを始め、当時の青年を席に呼ぶのだが当然、青年はいい中年になっている。そして思想を失いただのキチガイになった奥崎を真っ向から批判するのだ。仲人をしていただいた時の奥崎さんと違う、あなたには幻滅しました、と。
奥崎は逆上し殴りかかるのだが、なにせ70半ばの年齢である。逆に押し倒され、あっさりと取り押さえられる。そしてうろたえながら、尻尾を丸めて弁解するのである。肉体の老いだけはどうにもできない。
かつての野獣は狂犬になり下がっていた。それも貧弱な老犬に。哀れだった。観なければ良かった、とも思った。同時に、狂う事の悲しさもまざまざと思い知った。


そう言えば、今はプライベートモードになっていて読めないセミビキニ(id:aikawa8823)にも
「神様の軍隊の人」という表現で日記に登場していたと思う。


神様の愛い奴
http://www.loft-prj.co.jp/kamisama/index.html


関連して面白かった日記
id:Maybe-na:20050626


この本も探してみる事にした。
id:maru04:20050622


追加
id:hotsuma:20050627#p1経由
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/yaziuma/kowa2.html
奥崎の経歴が実に読みやすくまとまっていると思う。年表だけでは伝わらない部分も含めて。

 立候補して、衆議院の選挙のパンフレットと言えば、普通は、どこそこの大学を出て、どういう会社の重役で、どういう会の役員をしていてと、いろんな肩書きを書きますね。奥崎謙三の肩書きはたった2行――小学校卒業、前科四犯。これだけなんですね。

 この肩書きで国会議員に立候補したんですね。選挙演説ももちろんやりました。ぼくはたまたまラジオを聞いていたら、あのラジオで今流していますね、あの選挙演説で奥崎謙三が出てきました。ぼくはそれを聞いて涙が出そうになったのですけれども、あのもう軍隊口調なんです。

 わたくし奥崎謙三は、命あってここまできたからには、なにがなんでも天皇ヒロヒトを倒すつもりです。しかし相手はあまりに強大で、自分はあまりに無力です。どうかわたしくしに力を与えてほしい――と、あの選挙演説で堂々とぶちあげているんです。

 何か、こう、40年前の日本軍の兵士がどんなものだったかは知りませんけれども、ニューギニア戦線に生き残った兵士が、何万、何十万という戦友の亡霊を引きずって、40年という時空を飛び超えて現れたような、そんな印象を受けました。ぼくは奥崎謙三の怨念のようなものを感じて、ラジオを通してではありますが、身体が震えるのを感じました。

この選挙演説は是非とも聞きたかった。怒りに震えながら唾を飛ばし、背筋を伸ばして演説する奥崎が目に浮かぶようだ。彼の天皇侮辱は決して許容できるものではないが、口先だけの左翼が蔓延る世にあって常に行動者であったかつての彼に敬意を表しつつ、今はただ冥福を祈りたい。
さようなら、奥崎さん。